裁量労働制の導入・継続の新たな手続きについて [法改正]

 裁量労働制には、専門業務型と企画業務型があります。2024 年4月1日以降、専門業務型の適用のためには対象労働者の同意が必要となり、専門業務型・企画業務型ともに、同意の撤回を認めなければなりません。2024 年4月1日以降も、継続的に裁量労働制を適用する場合、2024 年 3 月末までに法改正の取り扱いに適合した労使協定届・労使委員会決議届を所轄の労働基準監督署に届出る必要があります。
 それでは、法改正の具体的な内容についてご説明します。

 専門業務型裁量労働制については、労働者本人の同意を得ること、同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと、同意の撤回の手続き、同意とその撤回に関する記録を保存することを労使協定に定めることが新たに必要になり、労働者本人の同意は、労働者ごとに、かつ労使協定の有効期間ごとに得ることが必要になります。労働者本人の同意を得る手続きにつきましては、本ブログの参考資料にある「専門業務型裁量労働制の解説」をご参照ください。
 一方、企画業務型裁量労働制については、もともと同意を得ることが必要でしたが、新たに同意の撤回の手続き、同意の撤回に関する記録を保存すること、対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うことが決議に必要になります。  
 さらに、企画業務型裁量労働制については、労使委員会の運営規程に次の事項を追加で定めることが必要になります。
対象従業員に適用される賃金・評価制度の内容についての使用者から労使委員会に対して行う説明に関する事項
制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項
・労使委員会の開催頻度を6ヵ月以内ごとに1回とすること
 なお、労働基準監督署に対する定期報告の頻度は、従来は6ヵ月以内ごとに1回でしたが、有効期間の始期から起算して初回は6ヵ月以内に1回、その後1年以内ごとに1回になります。
【労使協定・決議に定める事項】※下線が今回の法改正による追加事項
画像1.png
厚生労働省リーフレット「事業主の皆様へ 裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です」より引用

※ご参考までに、厚生労働省が公表した専門業務型裁量労働制に関する協定届の新様式の記載例は以下のようになります。
画像2.png

 新様式では、上記内容の通り、労働者本人の同意を得ること、同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと、同意の撤回の手続き、同意とその撤回に関する記録を保存することの事項が追加されています。
 この他にも、法改正後は、「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」に基づき、健康・福祉を確保するための措置を講じるにあたっては、①事業場における対象従業員全員を対象とする制度的な措置、および、②個々の対象従業員の状況に応じて講じる措置の分類から、それぞれ1つずつ以上の措置を実施することが望ましいとされました。

【①事業場の対象従業員全員を対象とする措置】※赤字が今回の法改正による追加事項
勤務間インターバルの確保
深夜労働の回数制限
労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の制度の適用解除)
・年次有給休暇についてまとまった日数連続取得の促進
※このうち、特に把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態を踏まえ、労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の制度の適用解除)を実施することが望ましいとされています。

【②個々の対象労働者の状況に応じて講じる措置】※赤字が今回の法改正による追加事項
一定の労働時間を超える対象労働者への医師の面接指導
・代償休日または特別休暇の付与
・健康診断の実施
・心とからだの健康問題についての相談窓口の設置
・適切な部署への配置転換
・産業医による助言・指導、又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

 なお、裁量労働制についての概要や上記内容についてもっと詳しい内容や導入手順をお知りになりたい方は、厚生労働省のホームページ「裁量労働制の概要」より資料・リーフレット等をご覧ください。
 また、同ホームページ上に、裁量労働制の概要や導入手順について分かりやすく解説した動画も公表されていますので、合わせてご覧ください。

参考資料
厚生労働省「事業主の皆様へ 裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です
厚生労働省「専門業務型裁量労働制の解説
厚生労働省「企画業務型裁量労働制の解説
厚生労働省「様式第13号

社会保険労務士法人ヒューマン・プライム MS2
https://humanprime.co.jp/







共通テーマ:仕事

「年収の壁」対策が10月から始動しました! [法改正]

 パートタイムで働く人が社会保険料の負担を避けるためなどの理由で、労働時間を抑える「年収の壁」が、昨今の人材不足下で大きな問題になっています。
 国民年金加入者のうち、厚生年金・共済組合に加入している配偶者に扶養される20歳以上60歳未満の方を「第3号被保険者」といいますが、第3号被保険者(令和4年度末 721万人)のうち約4割が就労されています。そして、このなかに
・収入が106万円または130万円を超えた場合に社会保険料負担が発生すること
・(配偶者が勤務する企業の)収入要件のある配偶者手当が支給されなくなることによる手取り収入の減少
を理由として、就業調整をしている人が一定程度存在しています。

 さらに、最低賃金が引き上げられると、年収の壁を超えないように就業調整をおこなう人がますます増える可能性があります。
 この年収の壁問題の解消に向けて、国は、従業員の年収が一定の水準を超えても手取り収入が減らないように取り組む企業を助成するなどの対策(年収の壁・支援強化パッケージ)を10月から開始しました。

1.「年収の壁」とは
 年収の壁には、大きく分けて税制上の壁と社会保険上の壁の2種類があり、主な年収の壁は次の通りです。
【税制上の壁】
100万円の壁:年収が100万円を超えると、(本人に)住民税がかかる可能性があります。
103万円の壁:年収が100万円を超えると、(本人に)一般的に所得税がかかります。
150万円の壁:年収が150万円を超えると、(配偶者の)配偶者特別控除額が縮小します。

【社会保険上の壁】
106万円の壁:勤務先の従業員数が100名を超える※場合、週の労働時間が20時間以上で、月額賃金が8万8000円(年収換算で約106万円)以上であれば、社会保険加入の対象となり、社会保険料が天引きされます。
※1年のうち6ヶ月以上、社会保険の被保険者数(短時間労働者を含まない)が101人以上となることが見込まれる企業で、特定適用事業所といいます。なお、令和6年10 月からは常時 51 人以上となります。
130万円の壁:年収が130万円以上になると、勤務先の規模や労働時間によらず、会社員などの配偶者や家族が入る社会保険の扶養から外れます。この場合、自身で国民健康保険や国民年金に加入する必要がありますが、一定の要件を満たす場合には勤務先の社会保険に加入することができます。

2.「年収の壁」対策の概要
 年収の壁に対する当面の対応策として、9月27日に発表された「年収の壁・支援強化パッケージ」の概要は次の通りです。
●106万円の壁への対応
・キャリアアップ助成金に社会保険適用時処遇改善コースを新設
・社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外

●130万円の壁への対応
・事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
労働時間延長等に伴い一時的に収入が増加し、直近の収入に基づく年収見込み額が130万円以上になる場合において、事業主が、人手不足による一時的な収入変動である旨を証明することができるようになります。これにより、直ちに被扶養者認定が取り消されることなく、将来の収入見込みが総合的な判断によることとなるため、被扶養認定が継続される可能性があります。

●配偶者手当への対応
・企業の配偶者手当の見直し促進
令和6年春の賃金見直しに向けた労使の話し合いのなかで配偶者手当の見直しが進むよう、見直しの手順をフローチャートで示した資料が公表されています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35882.html

3.「106万円の壁」への対応① 社会保険適用時処遇改善コース
 キャリアアップ助成金の新しいコースは、従業員が100人超の企業で週20時間以上勤務する場合に、社会保険に加入して保険料負担が生じる「106万円の壁」への当面の対策として設置されたものです。社会保険の適用後も手取り収入が減少しないよう、労働者の収入を増加させる取組を行う事業主への助成として、社会保険適用時処遇改善コースが新設されました。

●キャリアアップ助成金とは
 キャリアアップ助成金とは、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する制度で、既存のコースとして次の6つが設けられています。
画像1.png
厚生労働省HP「社会保険適用時処遇改善コース」に関するQ&A(事業主の方向け)より抜粋
 なお、6.短時間労働者労働時間延長コースは、新設された社会保険適用時処遇改善コースのメニ
ューに位置付けられることとなりました。

●社会保険適用時処遇改善コースの概要
 短時間労働者が新たに社会保険の適用となる際に、収入を増加させる取組を行った事業主に対して、労働者1人当たり最大50万円の助成が行われますが、助成対象となる労働者の収入を増加させる取組には、賃上げ、社会保険料負担に伴う手取り収入の減少分に相当する手当(=社会保険適用促進手当)の支給、所定労働時間の延長があります。
 社会保険適用時処遇改善コースには3つのメニューが設けられており、手当等により労働者の収入を増加させる場合に助成が受けられる「手当等支給メニュー」、所定労働時間の延長により社会保険を適用させる場合に助成が受けられる「労働時間延長メニュー」、手当等の支給と労働時間の延長を組み合わせる「併用メニュー」から、企業の実情に応じて選ぶことができます。
 助成金の対象となる労働者は、社会保険適用時の前日から起算して過去6ケ月以上の期間継続して雇用された方であって、2023年10月以降に新たに社会保険に加入した方となります。
 なお、社会保険適用促進手当とは、短時間労働者への社会保険の適用を促進するため、労働者が社会保険に加入するにあたり事業主が労働者の保険料負担を軽減するために支給するものです。

(1)手当等支給メニュー(手当等により収入を増加させる場合)
画像2.png
厚生労働省リーフレット「キャリアアップ助成金社会保険適用時処遇改善コース」より引用

イメージ(時給1,016円・週所定労働時間20時間の労働者の場合)
画像3.png
厚生労働省リーフレット「キャリアアップ助成金社会保険適用時処遇改善コース」活用ケースの図より抜粋

 通常は、年収106万円の労働者が社会保険の適用になると、社会保険料約16万円の負担が生じ、手取り年収が約90万円となります。この約16万円(賃金の15%分)を補填するため、事業主は社会保険適用促進手当を労働者に追加支給することによって労働者の手取り収入の減収を防ぐことができます。
 このように、労働者の手取り収入の減少を防ぐため社会保険適用促進手当(賃金の15%以上)を労働者に追加支給した事業主に対して給付される助成金が、手当等支給メニューです。ただし、3年目も受給するためには、社会保険適用促進手当に代えて恒常的に基本給(時給)を18%以上増額させていることが要件になります。2年目に前倒して社会保険適用促進手当に代えて恒常的に基本給(時給)を18%以上増額させた場合は、2年目分と3年目分の助成金(中小企業30万円)がまとめて給付されます。

(2)労働時間延⾧メニュー(労働時間延⾧を組み合わせる場合)
画像4.png
厚生労働省リーフレット「キャリアアップ助成金社会保険適用時処遇改善コース」より引用

 労働時間延⾧メニューは、労働者の手取り収入の減少を防ぐため、上記表のように所定労働時間の延長と賃金の増額を行うによって社会保険を適用させる場合に事業主に対して給付される助成金です。

(3)併用メニュー
画像5.png
厚生労働省リーフレット「キャリアアップ助成金社会保険適用時処遇改善コース」より引用

イメージ(時給1,000円・週所定労働時間20時間の労働者の場合)
画像6.png
厚生労働省リーフレット「キャリアアップ助成金社会保険適用時処遇改善コース」活用ケースの図より抜粋

 併用メニューは、手当等支給メニューと労働時間延⾧メニューを併用して労働者の手取り収入の減少を防ぐ取り組みを実施した事業主に給付される助成金です。1年目は、社会保険適用促進手当(賃金の15%以上分)を追加支給することによって、手当等支給メニューの助成金を受給し、2年目は、所定労働時間の延長と賃金の増額を行うによって、労働時間延⾧メニューの助成金を受給します。

4.「106万円の壁」への対応② 社会保険適用促進手当
●社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外
 社会保険の適用促進にあたり労使双方の保険料負担を軽減するという観点から、社会保険適用促進手当については、新たに社会保険の適用となった労働者(標準報酬月額が10.4万円以下の者に限る)の本人負担分の保険料相当額を上限として、標準報酬月額や標準賞与額の算定に考慮されません。
 また、事業所内での労働者間のバランスを考慮し、事業主が同一事業所内で同じ条件で働く他の労働者(既に社会保険が適用されている者で標準報酬月額が10.4万円以下の者)にも、事業主が保険料負担を軽減するために同水準の手当を支給する場合には、本人負担分の保険料相当額を上限として標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しない措置の対象となります。
 なお、算定から除外できる期間は、社会保険適用促進手当による保険料負担軽減の最初の対象月から2年間が上限となります。

●社会保険適用促進手当の規定例
 社会保険適用促進手当の支給を行う事業主は、就業規則または賃金規程等への定めが必要になりますので、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は、労働者の過半数を代表する者)の意見書を添付して、所轄の労働基準監督署へ届け出てください。
 社会保険適用促進手当を規定する場合の一例を示しますので、参考にしてください。
第〇条(社会保険適用促進手当)
 社会保険適用促進手当は、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者要件を満たさずに6ヶ月 間以上雇用されていたパートタイマーが新たに被保険者となった場合において、一定期間に限り、当該労働者の社会保険料負担を軽減するために支給する。
2 社会保険適用促進手当は、法令に基づき算定される社会保険料の被保険者負担分相当額を、翌月の賃金支払日に支給する。
3 社会保険適用促進手当は、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者となった日の属する月以降であって、社会保険料の被保険者負担分を当該労働者の賃金から控除することとなった月から最長2年間支給するものとする。

最後に
 「年収の壁」対策の目的は、社会全体で労働力を確保するとともに、労働者自身も希望通り働くことができる環境づくりを後押しすることです。企業における人材不足の解消と労働者のキャリア形成という労使双方にとってのWin-Winを目指して、今回新設された助成金等の活用をぜひご検討ください。

参考資料:厚生労働省リーフレット「キャリアアップ助成金社会保険適用時処遇改善コース」
     https://www.mhlw.go.jp/content/001159314.pdf
     厚生労働省「「年収の壁」への当面の対応策」
     https://www.mhlw.go.jp/content/12501000/001150695.pdf
     厚生労働省「厚生労働省からのお知らせ「年収の壁・支援強化パッケージ」
     https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001150837.pdf
     令和5年9月27日付「年収の壁・支援強化パッケージ」
     https://www.mhlw.go.jp/content/12501000/001150696.pdf

社会保険労務士法人ヒューマン・プライム MS2
https://humanprime.co.jp/





共通テーマ:仕事

短時間労働者に対する健康保険・厚生年金の適用拡大について【令和6年10月より】 [法改正]

令和6年10月より、被保険者数が51人以上の企業等(現在は101人以上の企業等)で働く、以下の要件に該当する短時間労働者(パート・アルバイト等)の方について社会保険の加入が義務化されます。

≪令和6年10月からの加入対象(短時間労働者)の要件≫
◇週の所定労働時間が20時間以上
◇月額賃金が8.8万円以上
◇2カ月を超える雇用の見込みがある
◇学生ではない

被保険者が51人以上の企業等とは?
健康保険・厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない、共済組合員を含む)の総数(※)が、1年のうち6カ月以上51人以上であることが見込まれる企業等のことです。
なお、この企業のことを「特定適用事業所」といいます。
(※)法人事業所の場合は、同一法人格に属する(法人番号が同一である)すべての適用事業所の被保険者の総数、個人事業所の場合は適用事業所単位の被保険者数となります。

[ひらめき]日本年金機構 拡大特設サイトはこちら
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2021/0219.html

少し先の改正内容となりますが、当該義務化の対象となる可能性がある事業所様は早目のご準備が必要と思います。
特に新たに加入対象となるパート・アルバイトのみなさんへ法律改正の内容が確実に伝わるようにしたいですね。

短時間労働者に対する健康保険・厚生年金の適用拡大の全体像については、ヒューマン・プライム通信のバックナンバー「年金制度の改正(2)」をご覧になってください。
https://humanprime.co.jp/hp328/

社会保険労務士法人ヒューマン・プライム:MA

「フリーランス新法」の成立とフリーランス保護の促進について [法改正]

  特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス新法」)が令和5年4月28日に国会で成立し、5月12日に公布されました。フリーランス新法の概要は以下のURLよりご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/001101551.pdf

 フリーランスが行う取引は、通常、企業組織である事業者が発注者となることが多く、発注者とフリーランスとの間には、役務等の提供に係る取引条件について情報量や交渉力の面で格差があります。そのため、フリーランスが自由かつ自主的に判断し得ない場合があり、発注者との取引において条件が一方的に不利になりがちです。フリーランス新法の施行により、以下のことが発注側に義務付けられ、違反した場合には、罰則が科されることになります。
 ・給付の内容、報酬の額などを書面または電磁的方法で明示すること
 ・報酬を60日以内に支払うこと
 ・ハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置を講じること など

 フリーランスについては、令和3年3月26日に「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(以下「ガイドライン」)が内閣官房 公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省によって策定されており、以下の内容が示されています。

 ①フリーランスの定義などの基本事項
 ➁フリーランスと取引を行う事業者が遵守すべき事項
 ③仲介事業者が遵守すべき事項
 ④現行法上「雇用」に該当する場合の判断基準

 ガイドラインでは、フリーランスの定義を、「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」としています。
 なお、「フリーランス」の定義に該当する場合でも、現行法上「雇用」に該当すると判断されると、フリーランスは、労働基準法、労働安全衛生法などの法律上の「労働者」とされ、発注者となる事業者は、使用者として法律に基づく様々な義務や責任を負うことになりますので、注意が必要です。

 例えば、労働基準法上の労働者に該当すれば、労働時間や賃金などに関するルールが適用されることになります。
 ガイドラインでは、労働基準法における「労働者性」の判断基準とその具体的な考え方は以下のように概要でまとめられています。

 (1)「使用従属性」に関する判断基準
   ①「指揮監督下の労働」であること(労働が他人の指揮監督下において行われているか)
   ②「報酬の労務対償性」があること(報酬が「指揮監督下における労働」の対価として支払われ   
    ているか)
 (2)「労働者性」の判断を補強する要素
   ①事業者性の有無(仕事に必要な機械等を発注者等と受注者のどちらが負担しているか等)
   ②専属性の程度(特定の発注者等への専属性が高いと認められるか)

最後に
 フリーランスは、自己のスキルを活かすことができ、また、事業主からの指揮命令を受けることなく時間の制約を受けない働き方が可能です。
フリーランス新法施行によりフリーランスの環境が整備されることで、働き方の選択肢の一つと考える人が増えていくのではないかと思います。
 一方、発注者にとっても、専門的な業務やシステム構築などの一定の業務だけを時限的にフリーランスに委託すれば経費の削減などにつながるため、フリーランスとして働く人が増えることは、フリーランスの選択肢や活用機会が増えることにつながり、発注者にとってもメリットが大きいと思います。

社会保険労務士法人ヒューマン・プライム MS2
https://humanprime.co.jp/


共通テーマ:仕事

従業員が301人以上の企業は 『男女の賃金の差異』公表が義務化されました。 [法改正]

日本における男女間賃金格差の縮小を図るため、令和4年7月に女性活躍推進法に関する制度改正がされ、情報公表項目に「男女の賃金の差異」を追加するともに、常時雇用する労働者が301人以上の企業の事業主に対して、当該項目の公表が義務づけられました。


公表内容
常時雇用する労働者が301人以上の企業は、下図の通り情報を公表する必要があります。
なお、常時雇用する労働者が101人以上300人以下の企業※については、下図の16項目から任意の1項目以上を情報公表する必要があります。
※女性活躍推進法は平成28年に成立し、事業主に女性が活躍できる行動計画を策定・公表するよう義務付けていますが、令和元年に法改正され、労働者数101~300人以内の事業主も令和4年4月1日から義務の対象となっています。
[ひらめき]詳しくは、㏋通信のバックナンバー「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画策定義務の対象拡大」をご視聴ください。
https://humanprime.co.jp/hp317/
(各区分の情報公表項目)
ほっとニュース230208-2.jpg


公表の時期
令和4年7月8日以降の最初の事業年度の終了後おおむね3か月以内に、直近事業年度の男女の賃金差異の実績を情報公表することが求められています。
従って、令和5年4月に新しい事業年度を迎える企業の場合、令和4年4月~令和5年3月の実績を、おおむね令和5年6月末までに公表することが必要です。


公表例
以下の図は、厚生労働省が示した男女の賃金の差異の公表例です。
全ての労働者、正規雇用労働者、非正規雇用労働者の3区分を表示し、対象期間を記載する必要があります。
ほっとニュース230208.jpg
さらに自社の女性活躍に関する状況を正しく理解してもらうために「説明欄」を活用し、任意でより詳細な情報や補足的な情報を公表することも可能です。格差が生じている背景や時系列で複数年度にわたる変化等を示すことで自社の状況をより正しく理解してもらうことは求職者や投資家へのアピールにもつながります。


公表方法
求職者等が容易に閲覧出来るよう公表する必要があります。厚生労働省では、「女性の活躍推進企業データベース」に掲載することを推奨しています。
女性の活躍推進企業データベース | トップ (mhlw.go.jp)


厚生労働省では、男女間の賃金格差の情報公表に関する好事例等を公表しています。
情報公表に際しては、数値だけでなく、説明欄等を活用して、格差の背景にある人事管理のあり方などを明らかにすることが重要とし、公表の好事例や、先進的な取組み例を紹介していますので、自社の情報公開に当たってご参考にされてください。
https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001042310.pdf


参考:厚生労働省「女性活躍推進法の省令・告示を改正しました」
000961793.pdf (mhlw.go.jp)
女性活躍推進法の省令・告示を改正しました|女性活躍|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
参考:東京労働局「『男女の賃金の差異』に係る情報公表について」
男女の賃金 (mhlw.go.jp)
参考:愛知労働局「男女の賃金の差異の公表について」
男女の賃金の差異の公表について (mhlw.go.jp)

社会保険労務士法人ヒューマン・プライム :I
コメント(0) 
共通テーマ:仕事

出生時育児休業給付金の支給申請手続きについて [法改正]

 令和4 年10 月1 日より改正育児・介護休業法の第二段階目が施行され、これによって出生時育児休業制度育児休業が開始されました。出生時育児休業とは、通称「産後パパ育休」と呼ばれ、産後休業をしていない労働者が、原則として出生後8週間以内の子を養育するために、通算4週間(28 日間)取得できる制度です。
なお、この出生時育児休業は、初回の申出の際に 2 回分をまとめて申し出れば、分割して取得することが可能ですし、労使協定を締結している会社では、一定期間まで就労も可能です。
 出生時育児休業制度の他にも、今回の法改正により従来の育児休業を分割で取得できること、および1歳以降の育児休業の開始日を柔軟にできるようになりました。

 他方、上記法改正に伴い、雇用保険法も改正され、出生時育児休業給付金の申請方法が追加され、従来の育児休業給付金の申請方法も変更となりました。
 今回のブログでは、出生時育児休業給付金の申請手続きに関してご紹介します。

①受給資格確認・支給申請
 出生時育児休業給付金の支給を受けるには、出生時育児休業を開始した被保険者を雇用している事業主が以下の受給資格確認・支給申請の手続きを行います。
画像1.png
厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続 被保険者・事業主の皆様へ」より引用

➁育児休業給付受給資格確認票・出生時育児休業給付金支給申請書
新たにできた申請書類の記載例です。
【記載例での前提条件】
出生時育児休業を令和4年10月3日から16日までと同月19日から25日までの2回に分割して取得し、それぞれの期間中に3日と1日(一日当たり7時間)就労して収入があった場合
画像2.png
厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続 被保険者・事業主の皆様へ」より引用

厚生労働省より公表されたリーフレットは出生時育児休業給付金・育児休業給付金の支給要件や延長する場合を含めた手続き方法などについて分かりやすく記載されていますので、実務の際に非常に参考になると思います。
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000986158.pdf

社会保険労務士法人ヒューマン・プライム M.S2
https://humanprime.co.jp/








共通テーマ:育児

【厚生年金保険・健康保険】2ヶ月以内の期間を定めて使用される人の取扱いが変わります!(令和4年10月〜) [法改正]

令和4年10月から、短時間労働者に対する厚生年金保険・健康保険の適用が拡大することについては、1月の人事・労務ほっとニュースやヒューマン・プライム通信第328号で取り上げていますので、皆さん、すでにご理解いただいていることと思います。

人事・労務ほっとニュース
https://humanprime.co.jp/hot220117/

ヒューマン・プライム通信
https://www.youtube.com/watch?v=T-JUNYYznlM&t=48s

ところで、社会保険の適用拡大と合わせて、厚生年金保険・健康保険の被保険者資格の勤務期間要件の取扱いが変更になることはご存知でしょうか。

具体的には「2ヶ月以内の期間を定めて使用される人」の取扱いが変わりますので、注意が必要です。
パートやアルバイトの方の社会保険の適用は、労働時間の長短が問題となることが多いのですが、雇用契約の期間についても適用除外要件があります。

それは、「2ヶ月以内の期間を定めて使用される者については被保険者としない。ただし、2ヶ月(2ヶ月未満の契約の場合はその期間)を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く」というもので、現行は、当初から2ヶ月を超えて使用される見込みがある場合であっても、2ヶ月を超えた時点から加入するという運用がなされています。

この点について法改正がおこなわれ、令和4年10月からは、雇用期間が2ヶ月以内の場合であっても、以下に該当するときは、雇用契約の当初から社会保険の加入となります。

①就業規則、雇用契約書等において、その契約が「更新される旨」、または「更新される場合がある旨」が明示されている場合
②同様の雇用契約に基づき雇用されている者が更新等により最初の雇用契約の期間を超えて雇用された実績がある場合

①の例
画像1.png

厚生労働省・日本年金機構リーフレット『厚生年金保険・健康保険の被保険者資格の勤務期間要件の取扱いが変更になります』より引用

https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2022/0613.files/kinmukikan_ri-huretto.pdf


事業所調査で、社会保険が適用されていない従業員等の雇用契約書等を確認し、上記①②のいずれかに該当することが事後的に判明した場合は、雇用契約の当初に遡及して適用するよう指導が行われることになりますので、新規雇入れ時に2ヶ月以内の期間を定めて雇用する場合は、注意が必要です。 

社会保険労務士法人ヒューマン・プライム N

事務所の衛生基準をご存知ですか?明るさは?トイレは? [法改正]

令和3 年12 月1 日に「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和3年厚生労働省令第188 号)」が公布され、すでに施行されています。併せて、事務所衛生基準規則(昭和47 年労働省令第43 号)及び労働安全衛生規則(昭和47 年労働省令第32 号)についても、一部運用が見直されました。
法改正施行から半年くらい経過していますが、従業員がより働きやすいように事務所における照度の基準や便所の設置基準等が見直されており、事務所等の職場環境の基準について確認しておくことは働く側にとっても大切なことだと思いますので、下記にて主な項目とポイントについて確認します。

① 照度の基準

スクリーンショット 2022-07-08 115934.png

改正前は、事務所の作業区分が3区分ありましたが、2区分になりました。
具体的には、精密な作業・300ルクス以上、普通の作業・150ルクス以上、粗な作業・70ルクス以上という基準がありましたが、
改正後は、一般的な事務作業・300ルクス以上、付随的な事務作業・150ルクス以上となりました。
※付随的な事務作業とは、資料の袋詰め等、事務作業のうち、文字を読み込んだり資料を細かく識別したりする必要のないものが該当します。

事務所における高年齢労働者が増加しており、必要に応じて個々の労働者に視力を眼鏡などで矯正することを促した上で、作業面における照度を適切に確保することが重要となります。

ちなみに、300ルクスは、JISの照明基準で執務空間の受付と記載がありますので事務作業するにはやや暗いと思います。ただし、明るすぎると目が疲れやすくなりますので適度に明るすぎないようにする必要があると思います。

② 便所の基準
便所については「独立個室型の便所」を設置することが義務化されました。
設置基準は以下の通りです。

スクリーンショット 2022-07-08 120124.png

男性用と女性用に区別せず、単独でプライバシーが確保されていること
便所の全方向が壁等※で囲まれ、扉を内側から施錠できる構造であること
※視覚的、聴覚的観点から便所内部が便所外部から容易に知覚されない堅牢な壁や扉のこと
1 個の便房により構成されていること
※仕切り板又は上部もしくは下部に間隙のある壁等によって構成されているものは不可

住居使用を前提として建築された集合住宅の一室を作業場として使用している場合など、
便所が1 箇所しか設けられておらず、建物の構造などの理由から男性用便房、男性用小便所、女性用便房の全てを設けることが困難な場合もあります。
このような場合については、同時に就業する労働者が常時10 人以内の場合には、便所を男性用と女性用に区別することの例外として、独立個室型の便所を設けることによって足りることになりました。

職場の便所については、誰もがプライバシーの確保、十分な広さ、清潔性等を望んでおり、できるだけ使いやすい便所を望んでいると思いますので、基準が高まることは有難いです。

③ 休養室・休養所の設置
常時50 人以上又は常時女性30 人以上の労働者を使用する事業者は、休養室又は休養所を男性用と女性用に区別して設ける必要があります。これらは事業場において病弱者、生理日の女性等が一時的に使用するために設けられるもので、長時間の休養等を目的としたものではないため、随時利用できる機能が確保されていれば専用の設備である必要はありません。
また、休養室又は休養所では体調不良の労働者が横になって休むことが想定されており、利用者のプライバシーと安全が確保されるよう、設置場所の状況等に応じた以下のような配慮が求められます。
・入口や通路から直視されないように目隠しを設ける
・関係者以外の出入りを制限する
・緊急時に安全に対応できる

④ 温度について
事務所において、事業者が空気調和設備を設置している場合の、労働者が常時就業する室温の努力目標値が変わりました。

改正前 17度以上28度以下 
改正後 18度以上28度以下

この他にも、更衣室・シャワー設備についてプライバシーの確保配慮などの見直しがされています。ぜひ、厚生労働省が公表しています「ご存知ですか?職場における労働衛生基準が変わりました」
https://jsite.mhlw.go.jp/iwate-roudoukyoku/content/contents/04kaiseijimushokijun.pdf)をご確認ください。

職場環境は、長期間働く上で非常に重要であり、従業員は皆働きやすいよう改善して欲しいと思っているはずです。労使で話し合いを行う等をして職場環境の不満がなくなるよう改善していって欲しいと思います。

引用元:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「ご存知ですか?職場における労働衛生基準が変わりました」

社会保険労務士法人ヒューマン・プライム MS2
https://humanprime.co.jp/


共通テーマ:仕事

令和4年度雇用保険料率が決まりました! [法改正]

雇用保険料の引き上げを柱とする雇用保険法などの改正法が令和4年3月30日に可決、成立しました。
雇用保険料率は以下のとおりです。

【雇用保険料率】----------------------------------------------------------------------
[ひらめき]令和4年4月1日~9月30日まで

・一般の事業        9.5/1000
<内訳>
労働者負担保険料率:3/1000
事業主負担保険料率: 失業等給付に係る率3/1000
雇用保険二事業率に係る率3.5/1000
----------------------------------------
・農林水産業及び清酒製造業 11.5/1000
<内訳>
労働者負担保険料率:4/1000
事業主負担保険料率: 失業等給付に係る率4/1000
雇用保険二事業率に係る率3.5/1000
----------------------------------------
・建設の事業        12.5/1000
<内訳>
労働者負担保険料率:4/1000
事業主負担保険料率: 失業等給付に係る率4/1000
雇用保険二事業率に係る率4.5/1000
----------------------------------------------------------------------

[ひらめき]令和4年10月1日~令和5年3月31日まで

・一般の事業        13.5/1000
<内訳>
労働者負担保険料率:5/1000
事業主負担保険料率: 失業等給付に係る率5/1000
雇用保険二事業率に係る率3.5/1000
----------------------------------------
・農林水産業及び清酒製造業 15.5/1000
<内訳>
労働者負担保険料率:6/1000
事業主負担保険料率: 失業等給付に係る率6/1000
雇用保険二事業率に係る率3.5/1000
----------------------------------------
・建設の事業        16.5/1000
<内訳>
労働者負担保険料率:6/1000
事業主負担保険料率: 失業等給付に係る率6/1000
雇用保険二事業率に係る率4.5/1000
---------------------------------------------------------------------------------------

令和4年度の雇用保険料率はこちら(厚生労働省ホームページ)


令和4年4月から、事業主負担の保険料率は一般の事業で、0.65%
(雇用保険二事業の保険料率が現行より0.05%引き上げ)となります。

また、令和4年10月から、同じく、0.85%
(失業等給付・育児休業給付の保険料が現行より0.2%引き上げ)となります。

なお、令和4年10月から、労働者負担の保険料率は一般の事業で、0.5%(現行は0.3%)となります。


社会保険労務士法人ヒューマン・プライム N

雇用保険法改正案を閣議決定 段階的に料率引き上げ [法改正]

令和4年2月1日、「雇用保険法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、
通常国会に提出されました。この改正法案の詳細は、厚生労働省ホームページをご覧ください。

<雇用保険法等の一部を改正する法律案(令和4年2月1日提出)>
https://www.mhlw.go.jp/content/000890713.pdf


新型コロナウイルス感染症が拡大する中、
過去に例のない大幅な雇用調整助成金の拡充措置等が行われた結果、
雇用保険財政は、支出が保険料収入を大幅に上回り、
その補填のために雇用安定資金残高は令和2年度末で0となり、
積立金もほぼ枯渇するという、極めて厳しい状況に至っています。

中でも、注目したいのは、雇用保険料率の2段階引き上げです。

〈以下抜粋〉
4.雇用保険料率の暫定措置及び雇用情勢等に応じた機動的な国庫負担の導入等
【雇用保険法、労働保険徴収法、特別会計法】
① 雇用保険の失業等給付に係る保険料率(原則0.8%)について、
令和4年4月~9月は0.2%、10月~令和5年3月は0.6%とする。
② 求職者給付の国庫負担割合について、
雇用保険財政や雇用情勢に応じて異なる国庫負担割合を適用するとともに、
別途国庫から機動的に繰入れ可能な仕組みを導入する。
また、育児休業給付等の国庫負担割合の引下げの暫定措置を令和6年度まで継続し、
求職者支援制度の国庫負担割合の引下げの暫定措置は、当分の間、
本則(1/2)の55/100とする。など

【雇用保険料率】(案)
令和4年4月1日~9月30日まで
・一般           9.5/1000(うち失業等給付に係る率2/1000)
・農林水産業及び清酒製造業 11.5/1000(うち失業等給付に係る4/1000)
・建設業          12.5/1000(うち失業等給付に係る4/1000)
令和4年10月1日~令和5年3月31日まで
・一般           13.5/1000(うち失業等給付に係る6/1000)
・農林水産業及び清酒製造業 15.5/1000(うち失業等給付に係る8/1000)
・建設業          16.5/1000(うち失業等給付に係る8/1000)

〈比較〉令和3年度の雇用保険料率はこちら
https://www.mhlw.go.jp/content/000739455.pdf

確定次第追って、ご案内いたします。


社会保険労務士法人ヒューマン・プライム:N