雇用保険の基本手当に係る 2 つのトピック ~基本手当日額の変更と失業認定のオンライン化~ [雇用保険]

 もし失業した場合、失業中の生活を心配することなく再就職活動ができるよう、一定の要件を満たした場合には、雇用保険の基本手当が支給されます。よく失業手当と言われるものはこれにあたります。今回は雇用保険の基本手当に関する二つのトピックをご紹介します。


トピック 1  基本手当日額の変更
 雇用保険では、離職者の「賃金日額」※1に基づいて「基本手当日額」※2が算定されますが、8月1日より「基本手当日額」の最高額と最低額が変更されました。
 ※1 離職した日の直前6か月に毎月決まって支払われた賃金から算出した金額
 ※2 失業給付の1日当たりの金額
 今回の変更は、令和4年度の平均給与額が令和3年度と比べて約1.6%上昇したこと及び最低賃金日額の適用に伴うものです。

具体的な変更内容
1,基本手当日額の最高額の引上げ
基本手当日額の最高額は、年齢ごとに以下のようになります。
(1)60 歳以上65 歳未満 7,177 円 →  7,294円(+117 円)
(2)45 歳以上60 歳未満 8,355円 → 8,490 円(+135 円)
(3)30 歳以上45 歳未満 7,595円 → 7,715 円(+120 円)
(4)30 歳未満      6,835円 → 6,945 円(+110円)
2,基本手当日額の最低額の引上げ
2,125 円 → 2,196 円(+71円)
[ひらめき]変更の詳細についてはこちらをご確認ください。
雇用保険の基本手当日額の変更



トピック 2  失業認定のオンライン化(試行)
雇用保険の基本手当を受給するためには、原則として、まず受給資格の認定を受け、その後も4週間に1度、ハローワークに出向いて、失業状態にあることの認定を受ける必要があります。しかし、様々な事情によりハローワークへ出向くことが負担の大きい方もいらっしゃいます。

※基本手当受給手続きの流れ(原則)
基本手当受給の流れ.png

 厚生労働省は令和5年1月以降、離島の住民の方を対象にオンラインでの面談を試験的に行い、日程調整の手間等はあるものの利用者のニーズや利便性の向上が確認出来たということです。この離島での取り組みに続き、令和5年7月24日より下記の通りオンラインでの失業認定の試行が始まりました。

対象地域:ブロックキー局(9労働局※)のハローワーク各1所
※ 9労働局…北海道局(函館所)、宮城局(仙台所)、東京局(品川所) 、新潟局(新潟所)、愛知局(名古屋中所)、大阪局(梅田所)、広島局(広島東所)、香川県(高松所)、福岡県(福岡中央所)

対象者*と内容 *希望者
① 来所が困難な者
公共職業安定所への出頭が大きな負担となっている者(例:難病患者、長期療養者、子育て中の者等)について、自宅からのオンライン面談による失業認定を可能とする。
② 計画的な早期再就職を目指してハローワークの支援を受ける者
就職支援プログラム事業の支援対象者について、個別支援期間中の認定日には、オンラインでの手続(電子申請による失業認定申告書の提出)のみによる失業認定を可能とする。(失業認定のみのためにハローワークへの来所や面談は要しない)
・ 初回の失業認定日は来所が必要。個別支援期間終了時に未就職の場合は、来所による認定に切り替え。

 令和5年度末までの試行を検証し、令和6年6月を目途にデジタル技術を活用した雇用保険制度の失業認定関連手続の在り方についての結論が出される予定です。



 雇用保険も時代や技術の変化に合わせ様々な見直しが行われているのですね。いざという時の重要な制度ですので一度確認しておくのも大切かもしれません。

参考
厚生労働省
雇用保険の基本手当日額の変更|厚生労働省
オンライン失業認定|厚生労働省
20230721失業認定におけるデジタル技術の活用について〔記者発表資料)
NHKニュース
失業給付受け取りに必要な面談 オンライン化拡大へ 厚労省 | NHK

社会保険労務士法人ヒューマン・プライム I
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病気療養のための休暇制度を導入してみませんか [人事制度]

 近年、組織のグローバル化に合わせた新しい休暇制度として、「シックリーブ(SickLeave)」が徐々に認知されてきています。シックリーブとは、労働者が業務外の病気やケガなど健康上の理由で仕事を休む際に取得できる有給の休暇のことで、海外では、EU諸国やオーストラリア、シンガポールやマレーシアなど多くの国や地域で法律として定められています。
 ただ、日本で導入している企業は全体の 4 分の 1 に留まっており、そのうちの6割は有給(全額+一部)ですが、4割は無給となっています(厚生労働省「令和 3 年就労条件総合調査」より)。

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引用元:厚生労働省「令和3年就労条件総合調査」

〇病気療養のための休暇の必要性
 昨今、長期にわたる治療等が必要な疾病のため、一定期間の休職などを経て、通院による治療を受けながら仕事をしている労働者が増加しています。
 例えば、がん患者の放射線治療は、毎日1,2時間の通院が1か月必要です。年次有給休暇とは別に、治療目的の私傷病休暇制度があれば、就労と治療の両立に取り組む不安を取り除くことができます。
 また、風邪や感染症などの突発的な体調不良時に取得できる病気のための休暇を、年次有給休暇と別に設けておくことは、万一に備えたセーフティネットになります。
 例えば、季節性インフルエンザや新型コロナウイルスは5類感染症扱いのため、就業制限の対象外となっていますので、発熱や体調不良があっても、給与を減らさないために働き続けてしまう労働者が出てくるも考えられます。病気療養のための有給休暇は、このような感染症罹患者を職場から隔離させるためにも有効といえ、周囲の労働者の安心にもつながります。

〇導入例
 導入する場合、例えば以下のような制度が考えられます。

導入例①
年次有給休暇とは別に、労働者本人やその家族に病気等が生じた場合に、有給扱いで年間 5日を上限に取得できる制度を設ける。
→本人やその家族の急な体調不良で休まなければならないときに病気休暇があることで、普段から安心して年次有給休暇を取得できます。
導入例②
短時間の検診や外来通院などに対応するため、1 時間単位で取得できる病気休暇制度(取得日数に制限はなく、通算10日までは有給扱い)を設ける。
→長期間の休職から復職した後に、短期間取得できる休暇制度があることで、労働者が安心して、治療と仕事を両立することができます。

〇最後に
 日本の労働者 1 人の年次有給休暇の平均取得率は 56.6%(厚生労働省「令和 3 年就労条件総合調査」)と、諸外国の取得率と比較すると低いのですが、日本人が年次有給休暇を取得しない最大の理由は、「緊急時のために取っておく」ということだそうです。
 したがって、シックリーブがあれば、年次有給休暇の取得率は上がり、ワークライフバランスの改善にも効果的なのではないかと思います。
 一方、企業側にとっても、労働者のウェルビーイング実現による生産性向上、また、働きやすい会社として人材の確保や求人者の増加につながることが期待できます。
 ぜひこの機会にご検討してみてはいかがでしょうか。

参考:
「働き方・休み方改善ポータルサイト」病気療養のための休暇 
https://work-holiday.mhlw.go.jp/kyuukaseido/recuperation.html) 
リーフレット「支えられる安心 支える安心 安心が継続勤務につながる」
https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category4/20221128_1.pdf

社会保険労務士法人ヒューマン・プライム MS2
https://humanprime.co.jp/























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驚きのランサムウェア事情 [セキュリティ]

3年連続で「脅威 第1位」となったランサムウェア攻撃は、2023年上半期も猛威をふるいました。身近な企業やサービスが被害を受けたとのニュースを耳にして、「これは危ない」と気を引き締めた方も多いのではないでしょうか。

昨年、世界ではサイバー攻撃によって6兆ドルもの損害が発生したとのこと。2025年には年間被害額は10.5兆円にも昇るだろうと予測され、これは全世界の自然災害による損害より大きく、全世界の違法薬物による犯罪収益よりも高いと言われています。

令和5年3月、警察庁サイバー警察局の報告書によると、日本に於ける2022年度のランサムウェア被害件数は230件。前年比は約58%増です。
ネットバンキングの被害件数は1,136件で、何と前年比95%増となっており、被害金額は約1,000億円!
ただしこの数字は氷山の一角。不正アクセス被害に遭った企業・団体のうち、44%は何故か警察に届け出なかったそうです。

そもそもランサムウェア攻撃とは、添付ファイルやメールのリンクをきっかけに、標的となる組織のネットワークに忍び込んで情報を盗みランサムウェアを実行。ファイルの暗号化やPCをロックするなどして相手を攪乱します。続いて「身代金を払わないと情報を流出させるぞ。暗号も解かないぞ。」と脅迫してくるのがパターン。ファイル暗号化と情報流出の2重の脅しによって多額の身代金を支払わざるを得なくなっている、という仕組みです。

セキュリティが堅牢な大企業ではなく、メインターゲットは中堅・中小企業とのこと。
何より驚きなのは、最近では闇サイトに於ける「定額ランサムウェアレンタル」なるものが行われているのだとか。知識の無い素人が毎月10万円程度でプログラムを借り受け、1億円の脅迫をあちらこちらで実行していると考えれば、こうも被害数が増えているのにも頷けます。

犯罪すらサブスクとは…。聞いているだけで空恐ろしくなってしまう一方、夏季休暇を前に何となく浮き足立った時期であるのも事実。旅行会社やイベント企業を装ったフィッシングメールが届き、触れてはいけないリンクを開いてしまうかもしれません。

くれぐれもメール内リンク、添付ファイルにはお気を付けて。

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